ガチ恋半ば
今、私はとあるアイドルに恋をしている。
恋(こい)とは、特定の相手のことを好きだと感じ、大切に思ったり、一緒にいたいと思う感情。 → 恋愛を参照。- wikipedia
この感情を、とあるアイドルに抱いている。
かの有名なアニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」にて、芽衣子が仁太に充てた手紙をご存じだろうか。
じんたんへ。
じんたんだいすきです。じんたんへのだいすきは、じんたんのおよめさんになりたいなっていう、そういうだいすきです。
そういう「だいすき」の気持ちを、とあるアイドルに抱いている。
でも本当に思いもよらない出来事から、予想外のところでガチ恋に立ち止まってしまった。
その日わたしは職場の健康診断を受けることになっていて、普通の健康診断に加えて、はじめての子宮頸がん検診も受けた。
ここで、申し訳ないけどわたしの恋愛遍歴も話さなくてはならない。
ひとつ前の恋愛をしていたのは二年前で、つまり彼氏が最後にいたのも二年前。クソ男だったけどわたしはその人のことが本当に好きで、粘着質な恋愛体質も相まって、吹っ切れるタイミングが来るまでその男を一年近く引きずった。つまるところ男女の営みをしていたのも二年前まで。
そいつを忘れるためとか普通に暇だったりとかして夜遊びもたまにしたけど、わたしの股の固さは巷(巷)では有名なほどで、みるみる処女膜の再形成を進めていたように思う。
そして、恋は突然やってきた。ラブストーリーは突然に、とはまさにこのこと。彼に抱く感情は他のアイドルとは違って、まさに恋だった。"好きな人"ができた。
彼のことを最初は「リア恋枠」と呼んでいたのに、彼のことを頻繁に目にするようになってから、その度にへんな胸の高鳴りがした。顔がいいアイドルはみんな好きなのに、彼だけはなにかが違う。これはもしや。でもそんな感情認められない、そんな葛藤を抱えながら、実物の彼を初めてこの目で見る機会がやってきた。この「好き」が、オタクとしてなのか恋愛感情としてなのか、はっきりさせようじゃないかという意気込みで臨んだ幕張。結果は言うまでもなく0対100で恋愛感情としての「好き」だった。
話は健康診断に戻る。
初めての婦人科、初めての子宮頸がん検診、なにもかもが初めてで緊張しきり。
下半身の身ぐるみを脱いで、もう担当の先生とは一生顔を合わせたくないと思うような格好を自動的にさせられ、あんまり鮮明にどこをどうやってたかとかはもう覚えてないけど、とにかくつっこんで、触診と内壁のなにかを擦りとるような、そういう内容の検診だったと思う。
その検診が、あまりにも痛かった。
声が出てしまうかと思うぐらい痛くて、反射的につまさきがビーンって伸びた。「力を抜いてくださいねー」とにかく放心状態だった。「しばらく血が出るかもしれませんけど、不自然なことではないので経過を見てくださいね」と説明を受けながら、あられもない姿で放心。
こんな痛いってことは、やっぱわたし処女なの?マジでまた膜張っちゃったの?
待合室でそんなことを考えているうちにいろんな処理は終わって、わたしは帰された。
放心状態で職場に帰る。痛い。その日、薄いグリーンのパンツを履いていたから、後ろが血だらけになってないか心配しながらちょっとガニ股で職場へと戻る道を歩く。結局血は一滴も出なかったけど痛い。お尻を確認する私の姿がコンビニのガラスに映る。哀しい。
その日から、こんな些細なことがきっかけで、私はガチ恋に立ち止まってしまった。
次の子宮頸がん検診も、こんなに痛いのだろうか。
わたしが好きな人はアイドルで、紛れもなくこの感情は"恋"だ。
変な意味じゃなくて、と書く余裕すらないというか、もう恋の成功なんてそういう意味なんだからこの際どうでもいいけど、子宮頸がんの検診が痛くならないようなそういうことをするような関係になるとしたら、それはどれぐらいの確率なんだろう。わたしはまた、こんなに痛い思いをしながら、パンツが血だらけになっていないかソワソワしながら職場に帰るのだろうか。
実際、痛みの強さは性交渉の有無とはさほど関係ないらしいことまで調べてみても、気は晴れなかった。
恋はたのしい。ものすごくたのしい。恋はきらめきだ。好きな人がいるだけで、ありふれた生活が輝き出す。
だけど、わたしは一体、なにを目指して恋をしているのだろうか。
だからといってこの気持ちを抑えることはできない。そんなことができたら、わたしはアイドルに恋をしない。
恋って、なんでこんなにつらいんだろう。いつか、いつか、と思い描きながら、わたしはいつまで彼のことを好きでいるつもりなんだろう。
わたしはひとりで死んじゃうんだろうか。みんな死ぬときはひとりだけど、それまで、それこそ子宮頸がん検診なんて必要ない状態を、死ぬそのときまで維持し続けるのだろうか。セックスしないで子供を産み育てたい。とにかく痛い。もう子宮も股も心もなにもかもが痛い。だけど、私は恋をしている。恋を止められない。
ガチ恋、どうすればいい?